iStentとHydrus——白内障手術と同時に行う低侵襲緑内障手術 (MIGS)について
【この記事の要点】 iStent inject® W(アイステント インジェクト ダブル。以下「iStent」)は、房水の排出路である線維柱帯に小さな医療機器(ステント)を留置して眼圧の下降を図る、低侵襲緑内障手術(MIGS)のひとつです。 同じ位置づけの機器にHydrus(ハイドラス)緑内障マイクロステントがあり、当院ではiStentとHydrusのいずれにも対応しています。 日本ではいずれも白内障手術と同時に行うことが原則で、緑内障点眼薬を使用中の初期〜中期の開放隅角緑内障の方が主な対象です。両者の効果や適した患者像には報告によって違いがあり、機種の選択は隅角検査を含む診察のうえで個別に検討します。
iStentとはどのような手術ですか?
iStent(正式名称:iStent inject® W トラベキュラー マイクロバイパス システム。本記事では以下「iStent」と表記します)は、目の中を循環する水(房水)の排出路である線維柱帯(せんいちゅうたい)に留置する、チタン製の極めて小さな医療機器です。留置した器具が房水の通り道(バイパス)となり、排出路の本流であるシュレム管へ房水が流れやすくなることで、眼圧の下降が期待できます。
緑内障手術の分類では、房水が本来通る排出路の通りを改善する「流出路再建術」にあたり、切開の範囲が小さい低侵襲緑内障手術(MIGS:ミグス)のひとつに数えられます。
日本では、iStentは白内障手術(水晶体再建術)と同時に行うことが原則とされています(白内障手術併用眼内ドレーン使用要件等基準 第3版・2024)※1。
Hydrusとはどのような手術ですか?
Hydrus(正式名称:Hydrus 緑内障マイクロステント。本記事では以下「Hydrus」と表記します)も、iStentと同じく線維柱帯・シュレム管を経由する房水の排出路を再建する、低侵襲緑内障手術(MIGS)で用いる医療機器です。ニチノール製(ニッケルとチタンの合金)でできた三日月形のステントを1個、シュレム管に沿って留置します。日本では2024年6月に承認された、比較的新しい機器です。
iStentが線維柱帯を貫通してバイパスをつくるのに対し、Hydrusはシュレム管の内側に沿って留置され、線維柱帯を貫通するのみならず房水の通り道をやや広い範囲で確保できると考えられている点が構造上の違いです。日本では、Hydrusも白内障手術(水晶体再建術)と同時に行うことが原則で※1、対象となる病期や点眼治療の状況など基本的な適応の考え方はiStentと共通しています。
どのような方が対象になりますか?
対象となるのは、おおむね次の条件に当てはまる方です(※1に基づく概要)。
白内障を合併している方:白内障手術と同時に行う術式のため、白内障の手術適応があることが前提です
緑内障点眼薬を使用中の方:緑内障点眼薬による治療を行っていることが使用の条件とされています
初期〜中期の開放隅角緑内障の方:原発開放隅角緑内障や落屑(らくせつ)緑内障が対象で、隅角(房水の出口付近)が十分に開いていることを隅角鏡検査で確認します
一つの眼に使用するステントは1種類のみです:同じ眼にiStentとHydrusを併用することはなく、どちらか一方を選択して使用します(iStentは2個、Hydrusは1個のステントを留置)
一方、閉塞隅角緑内障の方などは対象外とされています※1。実際に適応があるかどうかは、隅角検査を含む診察のうえで個別に判断します。
iStentとHydrusの構造・利点と限界
iStent・Hydrusのどちらも、白内障手術の切開創を利用して行うため、追加の大きな切開を必要としません。白内障手術の機会に合わせて眼圧下降を図れることが、この術式の特徴です。
構造上の主な違いは次のとおりです。
素材:iStentはチタン製/Hydrusはニチノール製
留置個数:iStentは1眼に2個/Hydrusは1眼に1個
留置の方法:iStentは線維柱帯を貫通する/Hydrusは線維柱帯を貫通したうえでシュレム管内に沿わせる
術後に眼圧の下降や緑内障点眼薬の本数の減少が得られたとする報告は、iStent・Hydrusのいずれについても存在します※1・※2・※4〜※7。点眼の負担が軽くなることは、長期にわたる治療の継続にもつながります。
一方で濾過手術(トラベクレクトミーなど)のような大きな眼圧下降は、いずれの機種でも一般に期待しにくいとされ、進行した緑内障や、目標とする眼圧が低い場合には他の術式を検討します。効果には個人差があり、すべての方で点眼を減らせるわけではありません。
iStentとHydrusはどう違うのですか?(比較検討)
iStentとHydrusのどちらがより適しているかについては、国内外でいくつかの比較研究が報告されています。ただし、これらの研究は実施国や試験デザイン(単独手術か白内障手術との同時手術か、留置するステントの本数、追跡期間など)が、国内で通常行われる方法(白内障手術との同時手術、iStentは2個・Hydrusは1個の留置)と異なる場合があり、数値をそのまま日本の診療にあてはめることはできない点にご注意ください。その前提のうえで、主な報告の概要を紹介します。
白内障手術を伴わない単独手術での比較:iStent(2個)とHydrus(1個)を単独手術として比較した無作為化比較試験(COMPARE試験)では、術後12か月の時点で、Hydrus群のほうが点眼薬を使わずに済んだ割合や、あらかじめ定めた基準を満たす「完全成功」の割合が高かったと報告されています※4。一方、追加手術が必要になった件数など安全性の指標は、両群でおおむね同程度でした※4。なお、この試験は単独手術(白内障手術を併施しない)での比較であり、日本国内の通常の使い方(白内障手術との同時手術)とは条件が異なります。
白内障手術と同時に行った場合の比較:白内障手術と同時にHydrusまたはiStent inject(2個)を留置した症例を比較した研究では、術後2年の眼圧下降の程度に統計学的な差はみられず、点眼薬の減少幅はiStent群でやや大きい傾向がみられたものの、統計学的に有意な差ではなかったと報告されています※5。また、Hydrusと3個のiStent inject® Wを比較した研究では、術後3年の時点で眼圧下降・点眼薬の減少・無点眼薬達成率のいずれについても両群に有意差はなく、合併症も両群とも少なかったと報告されています※6(この研究はiStentを3個留置しており、国内の標準である2個とは条件が異なります)。一方、比較的新しい実診療データを用いた報告では、Hydrus群のほうが相対的な眼圧下降率や点眼薬の減少幅が有意に大きかったとする結果もあります※7。
このように、報告によって結果の傾向は一致しておらず、現時点でどちらか一方の機種が一律に優れているとする明確な結論は得られていません。実際の機種選択は、隅角の形状、目標とする眼圧、点眼薬の使用状況、これまでの眼の手術歴など、個々の患者さんの状態をふまえて判断します。
リスクや合併症はありますか?
どの手術にもリスクがあり、iStent・Hydrusも例外ではありません。主なものとして次の点が知られています。
術中・術後の出血(前房出血):多くは軽度で自然に吸収されますが、一時的に見えにくくなることがあります
一時的な眼圧上昇:術後早期に眼圧が上がることがあり、点眼薬などで対応します
器具の位置のずれ・閉塞:眼圧下降が不十分となった場合には、追加の治療を検討します
白内障手術に伴う合併症:感染・炎症など、同時に行う白内障手術自体のリスクもあります
iStentについては、ナイロン糸やブレードを用いる従来の流出路再建術と比べて、術後の前房出血が少ないとする報告があります※1。
iStent・Hydrusで眼圧が十分に下がらない場合や、その後も進行が続く場合には、点眼薬の追加・変更、レーザー治療、線維柱帯切開術(トラベクロトミー)や濾過手術といった治療手段があります。手術のあとも、眼圧と視野の定期的な経過観察を続けることが前提の治療です。
当院ではiStent・Hydrusに対応していますか?
板橋もりや眼科では、慶應義塾大学病院眼科(緑内障班)で緑内障専門外来・手術を担当してきた医師が診療します。
当院では、流出路再建術としてiStent・Hydrus・線維柱帯切開術(トラベクロトミー)に、濾過手術としてトラベクレクトミー・EX-PRESSシャント・PreserFloに対応しています。iStentとHydrusのどちらについても、当院で手術を受けていただけます。どちらの機種を選ぶかは、隅角検査を含む診察の結果や、患者さんそれぞれの緑内障の病期・病型をふまえて、医師とご相談のうえで決めていきます。
手術全体の分類と使い分けの考え方は、関連記事「緑内障手術の種類とその選択」で解説しています。
受診の目安
白内障の手術を検討中で緑内障の点眼治療を受けている方、点眼を続けても眼圧が下がりにくい方は、一度眼科でご相談ください。iStent・Hydrusのいずれについても、適応は隅角の状態や病期によって異なり、診察と検査をふまえてはじめて判断できます。白内障と緑内障の両方をお持ちの方の全員が、iStentまたはHydrusの対象になるわけではありません。
よくあるご質問(FAQ)
Q. iStentだけを単独で受けることはできますか?
A. 日本では、iStentは白内障手術との同時手術として使用することが原則とされています(白内障手術併用眼内ドレーン使用要件等基準 第3版)※1。iStent inject® Wについては添付文書およびガイドライン上は単独手術としての使用も承認されていますが、保険診療上は現時点では対応しておらず、単独手術を希望する場合は自費診療となります。このため、当院では基本的に白内障手術との同時手術として行っています。白内障手術の予定がない方には、点眼薬の調整やレーザー治療、他の緑内障手術など別の選択肢を検討します。なお、Hydrusは白内障手術との同時手術のみの適応となっています※1。
Q. iStentとHydrus、どちらが良いのですか?
A. これまでの臨床研究の報告は一致しておらず、現時点でどちらか一方が一律に優れているとはいえません※4〜※7。隅角の形状や目標眼圧、これまでの治療歴などをふまえて、医師と相談しながら適した機種を選びます。当院ではどちらの機種にも対応しています。
Q. iStentやHydrusを入れれば点眼薬はやめられますか?
A. 術後に点眼薬の本数が減ったとする報告はありますが、すべての方が中止できるとは限りません。術後の眼圧の経過を見ながら、必要な点眼は継続します。
Q. 目の中にステントを入れたままで問題ありませんか?
A. iStent・Hydrusとも、留置したまま使い続けることを前提に設計された医療機器です※1・※3。金属ではありますが、MRIも3テスラまで対応可能であり、一般的なMRI MRIの使用は可能です。術後も定期的な診察で、眼圧や器具の状態を確認していきます。気になる症状があるときは早めにご相談ください。
Q. 効果はどのくらい続きますか?
A. 眼圧下降の程度や持続には個人差があり、機種による差も報告によって一致していません※4〜※7。眼圧が再び上がってきた場合には、点眼薬の追加や他の術式を検討します。手術のあとも通院を続けることが大切です。
医師監修:板橋もりや眼科 院長 守谷元宏 日本眼科学会認定 眼科専門医/難病指定医/身体障害者福祉法第15条指定医/慶應義塾大学医学部眼科学教室 特任助教 慶應義塾大学病院眼科(緑内障班)で緑内障手術指導に従事(執筆時現在)。
【参考文献】 ※1 白内障手術併用眼内ドレーン会議. 白内障手術併用眼内ドレーン使用要件等基準(第3版). 日本眼科学会雑誌. 2024;128(12):1013-1016. ※2 日本緑内障学会緑内障診療ガイドライン改訂委員会. 緑内障診療ガイドライン(第5版). 日本眼科学会雑誌. 2022;126(2):85-177. ※3 Glaukos社 iStent inject® W トラベキュラー マイクロバイパス システム 使用説明書(記事執筆時現在) ※4 Ahmed IIK. COMPARE Investigators. A Prospective Randomized Trial Comparing Hydrus and iStent Microinvasive Glaucoma Surgery Implants for Standalone Treatment of Open-Angle Glaucoma: The COMPARE Study. Ophthalmology. 2020;127(1):52-61. ※5 Holmes DP. Comparative study of 2-year outcomes for Hydrus or iStent inject microinvasive glaucoma surgery implants with cataract surgery. Clinical & Experimental Ophthalmology. 2022;50(3):303-311. ※6 Lee GA. Hydrus microstent versus triple iStent inject W combined with phacoemulsification for glaucoma management: three-year outcomes. Eye. 2026;40(4):505-511. ※7 Weich C. Comparison of the Intraocular Pressure-Lowering Effect of Minimally Invasive Glaucoma Surgery (MIGS) iStent Inject W and Hydrus—The 12-Month Real-Life Data. Diagnostics. 2025;15(4):493.
【関連記事】 ・緑内障手術の種類とその選択 ・緑内障とは——症状や治療の概略

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