緑内障手術の種類とその選択
【この記事の要点】 緑内障の手術は、点眼やレーザーで眼圧が十分に下がらない場合や、視野の進行が止まらない場合に、眼圧を下げて進行を抑える目的で行います。手術は大きく「流出路再建術(低侵襲緑内障手術=MIGSを含む)」「濾過手術」に分けられ、白内障手術と同時に行うこともあります。どの術式を選ぶかは、病期・病型・目標とする眼圧・過去の治療歴などをもとに医師が判断します。
緑内障の手術は何のために行うのですか?
緑内障は、眼圧などの影響で視神経が傷み、視野(見える範囲)が少しずつ欠けていく病気です。一度失われた視野や視神経は、現在の医療では元に戻すことができません。そのため治療の目的は、これ以上の進行をできるだけ抑えることにあります。
緑内障で進行を抑える方法として、確実な効果が報告されているのは眼圧を下げることです。治療はまず点眼薬から始め、必要に応じてレーザー治療を加えます。
それでも眼圧が目標まで下がらない場合や、視野の進行が続く場合に、手術による眼圧下降を検討します。手術は「視力を良くする」ためのものではなく、残っている視野を守るための治療である点が大切です。
緑内障手術にはどんな種類がありますか?
緑内障手術は、房水(目の中を満たす水)の流れをどう調整するかによって、いくつかの種類に分けられます。当院を含め、一般的には次のように整理されます。
流出路再建術:房水が本来通る排出路(線維柱帯〜シュレム管)の通りを改善する手術です。低侵襲緑内障手術(MIGS)の多くがこのグループに含まれ、iStentのような極小デバイスの留置や、線維柱帯切開術(トラベクロトミー)などがあります。白内障手術と同時に行いやすいことが特徴です。
濾過手術:房水を結膜の下へ逃がす新しい通り道(バイパス)を作る手術です。トラベクレクトミーが代表的で、PreserFlo Microshunt、Ahmedなどといった結膜下へ房水を導くデバイスもこのグループに含まれます。眼圧を下げる力が大きい傾向がある一方、術後の管理を要します。
白内障との同時手術:緑内障と白内障を併発している場合、白内障手術に緑内障手術を組み合わせて行うことがあります。特に閉塞隅角緑内障では、白内障手術(水晶体の摘出)そのものが眼圧を下げる方向に働くことがあります。
このほか、房水の排出を促すレーザー治療も緑内障診療で用いられます。手術とレーザーは対立するものではなく、病状に応じて組み合わせて用います。
術式はどのように使い分けるのですか?
同じ緑内障でも、適した術式は患者さんごとに異なります。医師は主に次のような点を総合して判断します。
病期:早期〜中等症か、進行しているか
病型:開放隅角緑内障か、閉塞隅角緑内障か、他の病気に伴う続発緑内障か
目標とする眼圧:どこまで下げる必要があるか
これまでの治療歴:点眼やレーザーの効果、過去の手術の有無
年齢や生活背景、白内障の有無
一般的な傾向として、比較的早期で、白内障手術と併せて眼圧を下げたい場合には流出路再建術(MIGSを含む)が、より大きな眼圧下降が必要な進行例では濾過手術が選択されることが多いとされています※1。ただしこれはあくまで目安であり、実際にどの術式が適しているかは診察と検査をふまえて個別に判断します。
手術のリスクや合併症はありますか?
どの緑内障手術にも、効果とともにリスクや合併症があります。主なものとして、次のような点が知られています。
術後の一時的な眼圧の上昇や、逆に眼圧が下がりすぎる低眼圧
出血、感染、炎症
一時的な視力の変動やかすみ
濾過手術では、房水を逃がす「濾過胞」に関連した感染や、低眼圧に伴う合併症
また、手術で眼圧が下がっても効果が一生続くとは限らず、追加の点眼や再手術が必要になることもあります。緑内障手術は眼圧を下げて進行を抑えるための治療であり、失われた視野を回復させたり、進行が完全に止まることを保証したりするものではありません。
手術以外の選択肢(点眼薬の追加・変更、レーザー治療、慎重な経過観察)も含めて、それぞれの利点とリスクを説明したうえで、方針を一緒に決めていきます。
当院ではどのような手術に対応していますか?
板橋もりや眼科では、慶應義塾大学病院眼科(緑内障班)で緑内障専門外来・手術を担当してきた医師が診療します。
当院では、iStentからトラベクレクトミーまで、病状に応じた術式を院内で選択できます。具体的には、流出路再建術としてiStent、Hydrus、線維柱帯切開術(トラベクロトミー)に、濾過手術としてトラベクレクトミー、EX-PRESS、PreserFlo Microshuntに対応しています(執筆時現在)。低侵襲緑内障手術(MIGS)から濾過手術まで、病期・病型に応じて術式を検討できる体制を整えています。
それぞれの術式の詳しい内容は、各術式の解説記事で順次ご紹介します。
受診の目安
すでに緑内障の点眼治療を受けていて眼圧が下がりにくい方、視野検査で進行を指摘された方、他院で手術を勧められて判断に迷っている方は、一度眼科でご相談ください。手術が必要かどうかは、眼圧・視野・視神経の状態を総合してはじめて判断できるもので、来院された方全員が手術になるわけではありません。
よくあるご質問(FAQ)
Q. 緑内障の手術をすれば視力は回復しますか?
A. 緑内障手術の目的は眼圧を下げて進行を抑えることで、失われた視野や視力を回復させるものではありません。早い段階で進行を抑えることが大切です。
Q. 手術をすれば点眼薬はやめられますか?
A. 手術後に点眼の本数が減ることはありますが、必ずしも中止できるとは限りません。術後も眼圧や視野の経過を見ながら、必要に応じて点眼を続けることがあります。
Q. MIGS(低侵襲緑内障手術)はどんな人に向いていますか?
A. 比較的早期の緑内障で、白内障手術と併せて眼圧を下げたい場合などに検討されることが多い術式です。適応は病型や眼圧の状態によって異なるため、診察のうえで判断します。
Q. 手術は入院が必要ですか?費用はどのくらいですか?
A. 術式や全身状態によって入院の要否は異なります。緑内障手術は健康保険の対象で、高額療養費制度の対象にもなります。具体的な費用は術式が決まった段階でご説明します。
医師監修:板橋もりや眼科 院長 守谷元宏 日本眼科学会認定 眼科専門医/難病指定医/身体障害者福祉法第15条指定医/慶應義塾大学医学部眼科学教室 特任助教 慶應義塾大学病院眼科(緑内障班)で緑内障手術指導に従事(執筆時現在)。
【参考文献】
※1 日本緑内障学会 緑内障診療ガイドライン改訂委員会. 緑内障診療ガイドライン(第5版). 日本眼科学会雑誌. 2022;126(2):85-177.
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